
食べたり笑ったり、毎日の生活の中で「口元」は人に見られやすいパーツの1つです。矯正治療はお口の状態が変わるだけでなく、お顔全体の印象がより華やかになったり、自信を持って笑えるようになったりと、身体にも心にも積極的な影響を与えてくれる効果を持っていると言えます。
皆さんは「開咬」についてご存知でしょうか?おそらく、言葉だけではイメージがつきにくいかと思います。しかし、この「開咬」で悩まれている方が多くいらっしゃいます。今回は、「開咬」の定義や原因、更に矯正治療の適応範囲や治療の流れまで詳しく学んでいきましょう。
開咬とは、不正咬合の1つです。
不正咬合とは、日常生活を送る中で必要な「呼吸する」「噛む」「話す」などの機能的な観点、また年を重ねるにつれて歯やその周囲組織、骨格等に見られる形態的変化の観点、更に「コミュニケーションの不自由さ」や「自己が抱く審美的な理想と現実の乖離に対する葛藤」といった心理的な観点、に対して障害をきたすような歯・歯列の異常の事を指します。
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開咬とは、上の歯と下の歯が一番多く接触して安定した状態(=咬頭嵌合位)の時に、上下の歯が数歯にわたって接触していない状態の事を指します。
このような傾向は前歯部分によく見られ、「前歯部開咬」と言われます。一方で、奥歯でも見られる事があり、「臼歯部開咬」と言われます。

開咬の目安の1つとして、「オーバーバイト」という指標を用いる場合があります。
「オーバーバイト」とは、上下の前歯のかみ合わせの深さの事です。
正常な噛み合わせは「オーバーバイト(+2〜3㎜程度)」とされます。つまり、上の前歯が下の前歯より2〜3㎜程度前に出ている状態を正常としています。
開咬になると、「オーバーバイト」の数値はマイナス(=上下の歯が触れずに隙間が空いていて、噛み合わせの深さが表現できない状態)になります。一方、プラスの数字の場合、大きくなるほど噛み合わせが深く、「ディープバイト」「過蓋咬合」といった状態を表すことになります。

開咬になる原因は3つに分類できます。
上顎骨や下顎骨の形の異常(重度の下顎前突・小顎症・下顎オトガイ部の後方過成長など)や遺伝的な要因に起因して開咬が発生することがあります。
歯の高さを見た時に、前歯部分に萌出異常や低位が見られたり、逆に臼歯部分が高位であったりと、骨格的な異常は見られず、歯にのみ原因がある場合にも開咬が発生することがあります。
口腔習癖が原因となったり、巨大舌などの口腔内の構造物の形態異常が原因となって開咬を誘発する可能性が考えられます。
| 開咬の原因になり得る口腔習癖 | |
|---|---|
| 舌突出癖 | 【正常】舌の先は上前歯の付け根に、舌の奥は上あごについている状態。 ↕ 【舌突出癖がある場合】飲み込んだり話したりする時に舌を前に突き出して前歯を押す癖がある。 →上下の歯の間に舌が位置する時間が長く、上下の歯が噛み合わずに開いたままの「開咬」になる可能性がある。 |
| (母指)吸指癖 | 「指しゃぶり(=母指吸指癖)」は幼少期に見られがちな口腔習癖の一つ。 →長期間続くと、上前歯が唇側傾斜する「出っ歯」や、上下の前歯が噛み合わない「開咬」になる可能性がある。 |
| 異常嚥下癖 | 舌を前歯に押し当てながら飲み込む癖のこと。 →舌で前歯を押し続ける動きが習慣化されると、「出っ歯」・「開咬」・「矯正の後戻り」にもつながる。 |
| 筋機能異常 | 舌・口唇の筋肉バランスの乱れが、舌で前歯を押す舌突出癖、飲み込み異常の異常嚥下癖、咀嚼・発音・呼吸・顎関節異常など広範囲に影響を与える。 →結果、「開咬」「出っ歯」などの不正咬合を誘発する可能性がある。 |
開咬は単なる見た目の問題ではありません。それでは、開咬が日常生活に与える様々な影響について見ていきましょう。
| 開咬による障害 | 具体例 |
|---|---|
| 審美的な影響 | 自然に口を閉じた時に口元の突出感が見られる場合がある。 |
| 発音の異常 | 「s」「z」などの歯擦音に発音異常が認められる場合がある。 |
| 咀嚼・嚥下への影響 | 上下の前歯が噛み合わず、前歯で噛み切れず、奥歯に偏った非効率な咀嚼が習慣化され、消化不良や栄養吸収不良を伴う可能性があります。 |
| 歯・歯周組織の異常 | 上下の前歯が噛み合わず、前歯で噛み切れない分、奥歯や顎関節に過重な負担がかかったり、上下前歯間に常に隙間があるため口腔内が乾燥して虫歯や歯周病を促進する可能性もある。これらの異常は歯周組織への悪影響も伴う。 |
| 舌の機能異常 | 舌が前歯を押し続ける「舌突出癖」が原因の1つとなって開咬を誘発し、更に開咬が進行すると上下前歯の間にできた隙間に舌が入り込みやすくなることで、より重度の開咬につながるという悪循環につながる。 |
| 心理的障害 | 患者様の理想とする口元の状態と現状にギャップがあると、外見に対するコンプレックスを抱いたり精神的なストレスにつながる場合がある。 |

マウスピース矯正の手順について簡単にご紹介します。
| 《マウスピース矯正の治療の流れ》 |
|---|
| 口腔内スキャナー(IOS)で患者様の歯型をスキャン ↓ スキャンしたデータをもとに3Dシミュレーションで歯の移動計画を立案 ↓ 計画に沿って歯を動かすためのアライナーを複数作製 ↓ 患者様の自己管理のもとマウスピース矯正を実施 (1日20時間以上アライナー装着/1〜2週間に一度のアライナー交換/口腔内清掃装置の洗浄/食事管理) ↓ 歯科医師が指定した期間ごとに来院してメンテナンスと治療経過の確認 ↓ 矯正治療完了後:後戻り防止や歯の安定を目的とした「保定装置」を装着 ↓ 歯科医師が指定した期間ごとに来院してメンテナンスと保定の経過を確認 |

上下の前歯の隙間が比較的少ない(2〜4mm程度)症例は、マウスピース矯正の適応と言えます。歯を適切な位置に移動させることで、前歯の噛み合わせを改善できます。
前歯部分にのみ開咬が見られ、小臼歯や大臼歯のかみ合わせが正常な場合、マウスピース矯正で治療が可能な場合があります。症例によっては、アタッチメント(半表面に浸ける小さな突起)を戦略的に配置することで、前歯を効率的に移動させられます。
かつての指しゃぶりや舌突出癖といった口腔習癖があったものの、現在はそれらの習癖が改善されている場合、マウスピース矯正で安定した治療効果が期待できます。ただし、舌の癖が残っている場合は、舌突出癖矯正装置で事前に改善したり筋機能訓練(MFT)を併用する必要があります。

上下の顎骨や左右の顎の骨の形状やバランスが大きく崩れている場合、マウスピース矯正だけでは根本的な解決が難しいと言えます。前歯の隙間(オーバーバイトがマイナス)が大きい重度の開咬は、成長期であれば顎の成長をコントロールする治療、成人であれば外科的矯正手術(顎の骨を切って正しい噛み合わせになるように顎の位置を調整する)が必要になるケースが多いです。
飲み込むときや安静時に常に舌を前歯の間に押し出す癖が強く残っている場合、矯正治療で一時的に開咬を閉じても、舌の力で再び開咬になる「後戻り」のリスクが非常に高くなります。この場合、筋機能訓練で舌の癖を改善することが優先されます。
マウスピース矯正による開咬の治療をご紹介します。

精密検査には以下のような検査方法があります。様々な方法を組み合わせて、根拠に基づいたより正確で適切な診断と治療方針に役立てます。
これらのデータから、開咬について「歯性」・「骨格性」・「習慣性」の分類や、顎の骨の状態・歯根の位置等を詳細に分析します。
※セファロ分析とは、「側頭部X線規格写真による分析」の事です。
上下顎の骨の位置関係・前歯の傾斜角度・顔面の成長パターンなどをプラスマイナスの領域で数値化し、基準値と照らし合わせて客観的な数値による評価を実施します。これにより歯性の開咬や骨格性の開咬などがはっきりします。
検査結果をもとに、マウスピース矯正による治療が可能かどうかを判断します。
マウスピース矯正での治療が可能と判断された場合、3Dシミュレーションソフトを使用して治療開始から終了までの歯の動きをビジュアル化します。この段階で、治療期間の目安・使用するマウスピースの枚数・アタッチメントの位置・ゴムかけの必要性などのおおよその目安を算出することが可能になってきます。
開咬の治療で重要な動きは、前歯を歯茎の中に押し込む「圧下」です。マウスピース矯正治療でこの「圧下」を効率的に行うために、適切な位置にアタッチメントを装着し、場合によっては顎間ゴム(上下の歯にかけるゴム)を併用します。
また、アンカースクリュー(矯正用のネジ)を骨に埋め込んで歯を圧下させたり、ワイヤー矯正との併用で効率的且つ大胆な歯の移動を行うことで良好な結果が得られたりすることがあります。
患者様の歯型を専用スキャナーで採得し、そのデータをもとにアライナー(マウスピース)を作製します。アライナーは1日20時間以上の装着を行い、1〜2週間で交換し、定期的に歯科医院でメンテナンスと経過観察を行います。患者様自身でアライナーの洗浄や口腔内清掃を積極的に実施していただくことが治療成功の重要な鍵になります。
定期的な経過観察の中で、歯の移動が完了し、開咬の状態が解消されたと判断された場合、矯正治療は終了します。次のステップでは、後戻り(歯が動かす前の状態に戻ろうとする生体反応)を防止して、適切な位置で歯を固定する為の方法として「保定装置」の装着を行ってもらいます。

マウスピース矯正の最大の魅力は、「透明で取り外し可能な樹脂製のアライナーを使用している事」と言えます。アライナーは1日に20時間以上装着しなければならないため、学生や社会人であれば学校や職場にも装着していく必要があります。そんな状況でも、装置が透明であるため矯正していることが目立ちにくく、更に食事の際には取り外しも可能であるため、食べることに集中できたり歯磨きがしやすかったりと、日常生活に溶け込んだストレスフリーでより衛生的な矯正治療を行うことが可能です。
マウスピース矯正は患者様ご自身でアライナーの交換や装置・口腔内の清掃を入念に行っていただく必要があります。自己管理がおろそかになると、歯周病や虫歯が発生して矯正治療が中断したり、装置の使用方法が正しくないと矯正治療が計画した通りに進まず、アライナーを作製しなおす必要が出て来たりします。

マウスピース矯正で開咬を治療することは可能ですが、すべてのケースに適応できるわけではありません。開咬とはどのような症状を指しているのか?また、重症度や原因に応じてどんな治療が適応になるのか?本記事では、開咬とその治療の一つとしてマウスピース矯正について詳しくご紹介しております。開咬は、生活する中で様々な悪影響をもたらします。大切な歯を守り、QOLの高い毎日を送るためにも、是非ご自身の口元にお悩みをお持ちの方はお気軽におひさま歯科にご相談ください。おひさま歯科では、患者様の健康を第一に、お一人お一人に寄り添った医療を提供しております。