睡眠時無呼吸症候群のサインに気づくには、セルフチェックで発症の可能性を客観的に把握することが大切です。
この記事では、医療現場でも活用されるチェック表や、リスクが高い骨格的な特徴、診断基準までを幅広く解説します。
セルフチェックはあくまで簡易的な目安ですが、体調管理や受診を検討する際の参考としてお役立てください。
睡眠時無呼吸症候群の早期発見には、リスクの有無を簡易的に確認できるセルフチェックが役立ちます。
臨床現場でも活用される方法を含む、以下の3つが代表的なセルフチェック方法とされています。
セルフチェックはあくまで目安ですが、発症リスクを客観的に把握できるのがメリットです。
それぞれのチェック方法について詳しく解説していきます。
STOP-Bang質問票は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)のリスクを評価するスクリーニングツールです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は睡眠時無呼吸症候群の中で最も多い病型で、約80%以上を占めると言われています。
質問内容は以下の8項目から構成され、「はい=1点」「いいえ=0点」で回答します。
質問項目 | 具体的な内容 | 回答 |
いびき(Snoring) | 大きないびきですか?(話し声よりも大きいか、あるいは閉めた扉越しに聞こえる程度) | はい・いいえ |
疲労(Tired) | しばしば疲労や倦怠感、昼間の眠気を感じますか? | はい・いいえ |
他者からの目撃(Observation) | 他の人から呼吸が睡眠中に停止しているのを指摘されましたか? | はい・いいえ |
血圧(Blood pressure) | 高血圧ですか、あるいは現在高血圧の治療を受けていますか? | はい・いいえ |
Body mass index(BMI) | BMIが35(または30)kg/m2以上ですか? | はい・いいえ |
年齢(Age) | 50歳以上ですか? | はい・いいえ |
首周囲径(Neck circumference) | 首の周囲径が40cm以上ですか? | はい・いいえ |
性別(Gender) | 男性ですか? | はい・いいえ |
※1
質問表の合計点が3点以上の場合は閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスクが高いと判断され、精密検査を受けることが推奨されます。
STOP-Bang質問票は医療現場でも広く活用されています。睡眠時無呼吸症候群の自覚症状がある方は、セルフチェックで客観的にリスクを確認し、必要に応じて医療機関への受診を検討しましょう。
(※1 参考)尾下豪人,他|閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスク評価における日本語版STOP-Bang テストの有用性
エプワース眠気尺度(ESS)は、睡眠時無呼吸症候群の代表的な自覚症状である「日中の眠気」を評価する方法です。
以下の8つの状況において「うとうとする可能性(眠気)」を0~3の4段階で評価し、合計点を算出します。
状況 | ほとんどない | 少しある | 半々くらい | 高い |
1. 座って新聞・雑誌・本・書類などを読んでいるとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
2. 座ってテレビを見ているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
3. 会議・映画館・劇場などで静かに座っているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
4. 乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
5. 午後に横になって休息をとっているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
6. 座って人と話をしているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
7. 昼食後(飲酒なし)、静かに座っているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
8. 座って手紙や書類などを書いているとき | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
※1
合計11点以上で日中の眠気が強い状態と判断され、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が疑われます。
臨床現場でも、エプワース眠気尺度(ESS)は重症度の把握や精密検査の必要性を判断する際に活用されています。
合計点数が低くても、いびきや日中の強い眠気が続く場合は、早めに医療機関で検査を受けることをおすすめします。
(※1 参考)日本呼吸器学会|日本語版 the Epworth Sleepiness Scale(JESS)
睡眠時無呼吸症候群の発症には、顔や顎の骨格、舌や喉の軟部組織の形態など、解剖学的な特徴も影響します。(※1)。
セルフチェックの目安として、以下の特徴が当てはまる場合は注意が必要です。
特に日本人は、顔の前後径が小さく上下に長い骨格的特徴から、気道が狭くなりやすい傾向があります。
骨格の特徴は遺伝することも多いため、家族にいびきや無呼吸を指摘された人がいる場合は、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが高い可能性があります。
(※1 参考)村田 朗|睡眠時無呼吸症候群の診断と治療
睡眠時無呼吸症候群の発症を疑うサインとして、受診のきっかけになる代表的な症状には以下が挙げられます(※1)。
睡眠時無呼吸症候群は、初期・進行期といった段階的な症状分類が明確に定義されているわけではありません。
症状が自覚される時点で、すでに一定の重症度に達しているケースも多く見られます。
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、脳卒中や心血管疾患などの重篤な合併症リスクにもつながるため、早期に異変に気づき、速やかに受診することが重要です。
(※1 参考)日本呼吸器学会|睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
睡眠時無呼吸症候群の検査は段階的に進められ、問診や簡易検査の結果に応じて精密検査の内容が選択されます(※1)。
以下は、主な検査の流れと費用の目安をまとめたものです。
検査の段階 | 内容 | 費用目安(3割負担の場合) |
1.初診時(外来) | 問診・血液検査・質問票などの基本的なスクリーニング検査。 | 約3,000~5,000円 |
2. 簡易検査(自宅) | 自宅で簡易モニター機器を装着し、睡眠時の呼吸状態・酸素飽和度・心拍数などを記録。 | 約3,000円前後 |
3. 精密検査(入院) | 必要に応じて1〜2泊の入院で、脳波・心電図・呼吸パターンなどを詳細に測定。 | 約20,000円〜50,000円 |
多くの場合は、自宅での簡易検査(アプノモニターなど)と臨床症状の結果から診断や治療方針が検討されます。
精密検査は、簡易検査で診断がつかない場合や、重症度・合併症の精査が必要なケースなど、医師の判断により実施されます。
なお、検査費用や内容は医療機関によって異なるため、事前に受診先で確認しておくと安心です。
睡眠時無呼吸症候群の基本的な診断は、いびきや日中の眠気などの典型症状の有無と、睡眠中の無呼吸・低呼吸数(AHI)を組み合わせて行われます。
典型症状の有無 | AHI(無呼吸・低呼吸指数 / 時間) | 診断基準 |
症状あり | 5回以上 | 睡眠時無呼吸症候群と診断 |
症状なし | 15回以上 | 睡眠時無呼吸症候群と診断 |
症状なし | 5~14回 | 原則、診断基準に該当しない |
※1
AHI(無呼吸・低呼吸指数 / 時間)の数値は重症度の判定にも用いられ、以下のように分類されます。
1時間あたりの無呼吸・低呼吸の頻度が高いほど脳や心臓への負担が大きくなり、重篤な合併症のリスクが高まります。
慢性的ないびきや日中の眠気などの症状に気づいた段階で、速やかに医療機関を受診することが望まれます。
(※1 参考)日本呼吸器学会|睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
睡眠時無呼吸症候群の早期治療が重視されるのは、命に関わる深刻な合併症を招くリスクがあるからです。
代表的な合併症には、以下の4つが挙げられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
睡眠時無呼吸症候群は高血圧の発症に直接関わるリスク因子であり、患者の約半数が高血圧を合併しているという報告もあります(※1)。
中等度〜重症の患者で高血圧を発症する傾向が強く、夜間の無呼吸・低呼吸による交感神経亢進や酸素飽和度の低下が要因の一つと考えられています。
高血圧が続くと、脳卒中や心疾患などの命に関わる合併症のリスクが高まるため、早めの対策が欠かせません。
特に、CPAP治療は血圧の安定化に有効とされており、脳や心臓への負担軽減が期待されています。
睡眠時無呼吸症候群は、2型糖尿病の発症や進行に影響を与えることが明らかになっています。
夜間の無呼吸による低酸素状態や睡眠の分断がインスリンの働きを妨げ、血糖値コントロールを悪化させるためです。
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は、いずれも肥満や喫煙などの共通する危険因子を持ち、互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。
睡眠時無呼吸症候群の治療に加え、体重管理や生活習慣の見直しにも取り組むことで、将来的な合併症の予防が期待されます。
睡眠時無呼吸症候群は、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患のほか、心不全の発症にも深く関与しています。
無呼吸による低酸素や血圧変動が心臓に負担をかけ、冠動脈や心機能に悪影響を及ぼすためです。
また、夜間高血圧や朝方の血圧上昇も、心臓や血管の病気のリスクを高めることが指摘されています(※1)。
睡眠時無呼吸症候群の治療は、心血管疾患リスクの低減にもつながるため、早期に介入することで予防効果が期待できます。
(※1 参考)苅尾 七臣|睡眠時無呼吸症候群と高血圧
睡眠時無呼吸症候群の中でも、特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管障害の危険因子とされています。
夜間の低酸素状態や血圧の変動が、脳血管障害の発症メカニズムに深く関与しているためです。
アメリカの研究では、重症の睡眠時無呼吸症候群患者の脳卒中の発症リスクは約3.3倍に上昇すると報告されています(※1)。
脳卒中は予期せず発症し、後遺症が出ることや命に関わるケースも少なくありません。
睡眠時無呼吸症候群の早期発見・治療は、脳血管疾患の予防や健康寿命の延伸につながります。
(※1 参考)NEJM|Obstructive Sleep Apnea as a Risk Factor for Stroke and Death
睡眠時無呼吸症候群(SAS)についてよくある質問をまとめました。
健康保険を利用した場合、3割負担で3,000円前後が目安とされています。
医療機関によって費用は異なるため、検査前に詳細を確認しておくと安心です。
いびき、日中の眠気、無呼吸の指摘などの典型症状がある場合は、呼吸器内科への受診が推奨されます。
または、かかりつけ医に相談し、症状や既往歴に応じた診療科を紹介してもらうのもよいでしょう。
アプリやスマートウォッチは、睡眠中の呼吸やいびきの傾向を簡易的に把握する手段として有効と考えられます。
ただし、あくまでも簡易的な目安のため、正確な診断には医療機関での検査が必要です。
肥満体型の方はいびきが出やすく、減量によって改善することがあります。
標準体重になってもいびきが続く場合や、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は別の治療が必要となることもあります。
睡眠時無呼吸症候群のセルフチェックは、受診のきっかけや早期発見による合併症予防に役立ちます。
セルフチェックではリスクが低くても、睡眠時無呼吸症候群の症状が少しでもあれば、自己判断せず医療機関での検査が推奨されます。
当院は脳神経外科ですが、睡眠時無呼吸症候群の検査や治療が可能です。脳神経外科医としての視点から、将来の脳血管疾患予防・認知症予防も考慮した治療を行っています。
CPAP治療に加え、併設する歯科と連携したマウスピース治療にも対応しています。
いびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛などでお悩みの方は、当院へご相談ください。スムーズにご案内できるネット予約もご利用いただけます。