乳幼児から小・中学生・高校生まで、お子様が頭をぶつけた場合
「脳神経外科を受診して、診てもらおう。」
とお考えになる保護者の方も多いのではないでしょうか。
その際、脳の損傷や骨折がないかどうかを
頭部CTで調べるべきでしょうか?

今回は、子供さんが頭部打撲をしたときのCTの必要性について
専門医が詳しく解説していこうと思います。
子供さん、特に未就学児は、成人と比べ、体に対して頭が大きく
バランスを崩しての転倒で頭をぶつけることが多いです。
就学児以上では転倒に加えて、スポーツや交通事故など、
不慮の事故が原因として増えます。
頭には脳という重要な臓器がありますので、
保護者の方々も心配でしょう。
頭をぶつけたお子様、全員に対して、頭部CTをするべきでしょうか?
答えは「No」です。

少し話がそれますが、
日本のCTの台数は人口100万人当たりで世界1位、というのをご存じでしょうか。
OECD加盟国平均の4倍以上です。
2023年の世界主要国CT保有台数の統計では、日本は1万4千台以上でした。
当院を含めて、CTを保有している診療所も多く、
国内におけるCT保有施設の4割以上は診療所だそうです。
何を伝えたいかと言いますと、
日本はCT検査へのアクセスが
諸外国に比べてはるかに簡便であるということです。
これは諸事情あると思いますが、検査好きな国民性も一因なのでしょう。
病院・診療所にかかったら、
「何か検査をしてもらって、異常なしとの結果を持ち帰りたい。」
「異常があるなら、どこに異常があるのか、“検査で”はっきりさせたい。」
と、お思いの患者さんが多いように感じております。
頭部CTはX線を使って脳の断面図を撮像できる検査です。
おケガを含めて、様々な病気の発見や診断に役立ちます。
しかし、放射線を使う検査ですので、被ばくがあります。
未成年、特に乳幼児ではCT検査を受けることで、
発がんのリスクが報告されています。
ドイツで約66万人を追跡調査した研究では、
小児に対する1回の頭部CT検査はその後10年の間に
1人/1万人の頻度で悪性脳腫瘍を誘発する
というデータが出ています。
頭部CTでの被ばく量は1~2mSv(ミリシーベルト)程度です。
日本に住んでいる場合、地球や太陽や宇宙などから来る自然放射線被ばくが
年間に2mSv程度となっています。
ですので、頭部CT検査をすることは、
年間自然被ばく量を一度に受けることになります。
そう考えると、決して少なくない被ばく量です。
参考までに、
500mSvを一度にあびると目の白内障が生じる危険が、
1000mSvだと皮膚の障害・脱毛・吐き気などの急性障害
が出るレベルとされています。
したがって、不必要な頭部CTの実施は
できる限り避けましょう、となっています。
「小児頭部外傷時のCT撮像基準の提言・指針」が
日本小児神経学会から2019年に公表されています。
アメリカ・カナダ・イギリスにおける
CTを撮る場合・しない場合についての基準を参考に、
日本の関連学会が協力して作成したものです。
抜粋しますと、頭部CTを撮影した方がいい場合は
以下の症状があるケースなどです。
逆に、これらの症状がない場合は、CTをお勧めしないことになっています。
あえて強調しますが、
「撮らなくてよい」ではなく、
「お勧めしない」となっています。
禁止まではしていませんが、「お勧めしない」というのは
しない方がよい・するべきではない、ということです。
たまにですが、医師から
「CTは不要でしょう。」
と伝えると、不満感・不安感を示される保護者の方がいらっしゃいます。

ですが、上記の理由によって、医学的な判断と
何よりもお子さんの脳を被ばくから守りたいために
CTは不要と判断してお伝えしているのです。
正直、お金儲けだけを考えるなら、
拒否されない限り頭をぶつけたお子さん全員にCTを撮影した方が、
診療所や病院はお金が入ります。
また、全例で撮影する方が仕事としても楽になります。
必要か不要か、を判断しなくて済むからです。
検査をしない、ということは医師にとっても
少し労力と勇気が要ることです。
個人的な意見ですが、
ご自分でまだ判断できない乳幼児に、
保護者の方が「検査を受けさせて安心したいから。」
との理由だけで不必要な検査を求めることは、
大人のエゴになるかもしれません。
もちろん、医師の判断も完璧ではありません。
基準や指針に沿って、
受診された現場では「頭部CTは必要ない」とした場合でも、
後に重篤な状態や致死的になるケースもあり得ます。
診察終了時にお渡ししている「頭部外傷後の注意点」に沿って
お子さんの様子をご家庭で見守っていただき、
異常があれば再診・もしくは適切な医療機関の受診をお願いしております。

最後に、2点お伝えいたします。
今回は頭部CTの被ばくについて、その危険性を強調する内容になりました。
しかし、急性の障害は全く生じない充分安全な量ですので、
必要な時は安心して検査を受けてください。
また、被ばくはとても心配だけど、できれば検査は受けたい、という方には
MRIという選択肢があります。

MRIは磁力・磁場を使った検査ですので、
放射線被ばくはありません。
10~15分かかる検査中も安静が保てる
ご年齢のお子さんであれば対応可能です。
ご希望の際はご相談ください。
頭をぶつけたときは、おひさま脳神経外科・歯科へ!

参考文献
・週刊日本医事新報 5274号(2025年5月24日)
・Lancet Oncol. 2023 Jan;24(1):45-53. doi: 10.1016/S1470-2045(22)00655-6. Epub 2022 Dec 6.
PMID: 36493793
・小児頭部外傷時のCT撮像基準の提言・指針 日本小児神経学会