「もし家族や自分が認知症になったらどうしよう」「もしかして認知症になってきてる?」
年齢を重ね高齢になればなるほど認知症になりやすくなります。
認知症は誰もがなりうる可能性がある病気なのです。
今回は、まず認知症とはいったい何なのか、他にも認知症の種類、症状、治療、予防
について解説していこうと思います。
認知症は、高齢化社会であるわが国において有病率が増加傾向にあります。
社会的問題としても取り組む必要があると考えられています。
他の疾患に合併していることも多く、適切な理解と対応が求められます。
さまざまな方法で診断していますが、共通しているのは「一度獲得した認知機能水準が低下する」
ことであり、それにともなって「日常生活に支障をきたしている」状態にあることです。
わが国では、かつては「ぼけ」ともいわれ老化による「もの忘れ」も含む
常用語として用いられていました。
また、かつては「痴呆」という医学用語も使われていました。
しかし、痴呆という言葉は誤解や偏見を招くという理由から、日本では、2004年に「認知症」に改められました。
では、本題の認知症の病態について解説していきましょう。
大脳によって行われる神経活動には、手足を動かすといった単純な運動機能以外のさまざまな機能が存在します。
代表的なものに、言語に関する機能、体性感覚や視覚などの感覚情報を統合して処理
していく機能、記憶、遂行機能、社会的行動などがあります。
認知症ではこれらの機能が障害され、様々な症状を引き起こします。
参考文献:著者代表 北川公子,老年看護学,系統看護学講座 専門分野Ⅱ,医学書院,
認知症の原因疾患は多岐にわたります。
疾患ごとに経過や患者への対応方法が異なるため、それぞれに正しい理解が必要です。
わが国では、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」の
3疾患がほとんどを占めるため、まずはこの3疾患について詳しく説明しようと思います。
アルツハイマー型認知症は、患者さんの数が最も多い疾患であり、認知症の中で約半数を占めます。
ほとんどが65歳以上の患者さんですが、若い人にも起こることがあります。
アミロイド、リン酸化タウというたんぱく質が長い年月をかけて脳に溜まり、
大脳皮質、海馬での神経細胞の働きが少しづつ失われて脳が萎縮し認知機能障害を発症します。
まずは、物忘れから始まり、見当識障害(時間や年月・方向、
自分がどこにいるかわからなくなる)、判断力の低下、精神症状などが徐々に進行していきます。
症状を完全に治療で治すことは出来ませんが、症状の進行を緩やかにすることは可能です。
血管性認知症とは、脳血管障害に関連した認知症の総称です。
脳梗塞や脳出血といった、脳血管障害(脳卒中)により脳の神経細胞が
破壊されることにより起こる認知症です。
脳血管障害によって一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、脳の機能が低下します。
脳血管障害を起こした場所により症状は異なりますが、認知症状だけでなく
手足のしびれ・震え、麻痺、言語症状などの神経症状を伴います。
血管性認知症の場合は認知症の治療のみならず、脳血管障害の治療も必要になることがあります。
脳の中にレビー小体(異常なたんぱく質のかたまり)が溜まることで、
脳の神経細胞が障害されて発症します。
症状としては、認知症状だけでなく、手足の震えや歩行障害、動作が鈍くなる
といったパーキンソン病のような体の症状が出現することが特徴です。
また、あるはずのないものが見えるという「幻視」も出てきます。
他にも、立ち眩み、失神、うつ病などの多彩な症状が出現するので注意が必要です。
先程からさまざまな症状が出現することを説明していますが、
症状について、さらに深堀して説明していきます。
認知症の症状には、脳の神経細胞が死んでいく事で発生する「中核症状」と
本人の性格や素質、環境、人間関係など、さまざまな要因から起こる
周辺症状の「行動・心理症状」の2つがあります。
中核症状には、記憶障害、注意障害、言語障害、見当識障害、実行機能障害があります。
「記憶障害」は、周りからの情報や自分の発言や行動などを記憶することが
できなくなり、直前のことが思い出せなくなる症状です。
「注意障害」は、物事や周囲に対する注意力や集中力が低下する症状で、
考えるスピードが遅くなり、判断にも支障が出ます。
「言語障害」は、言葉をつかさどる脳の部分が機能しなくなり、適切な言葉や
単語が出にくく、相手の言葉の理解も難しくなる症状です。
「見当識障害」は、時間や年月・方向、自分がどこにいるかわからなくなる、判断力の低下、
精神症状などが徐々に進行していきます。
「実行機能障害」は、物事の計画や順序立てた実行が難しくなる症状です。
仕事や家事を段取りよく進められなくなり、日常生活に支障が出てきます。
行動・心理症状には、人それぞれ個人差がありますが、代表的なものとして
幻視・幻聴、多弁・多動、暴言・暴力、排泄トラブル、徘徊、過食・拒食などの
食行動異常、睡眠障害、妄想などが挙げられます。
これらの症状は、環境の変化や治療への恐怖感などから引き起こされることも
多いため、環境を調整したり接し方を変えたりすることで本人の不安がやわらぎ、
改善することがあります。
認知症は、前述の通り、脳の機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態を
指す言葉です。
病気の症状であり、単なる加齢ではありません。
加齢による「もの忘れ」 | 認知症による記憶障害 | ||||
---|---|---|---|---|---|
原因 | 脳の生理的老化 | 脳の神経細胞の変性や脱力 | |||
進行 | 半年や1年で進行しない | 徐々に進行する | |||
記憶 |
・体験の一部を忘れる 例)朝食になにを食べたのか忘れた ・とっさに思い出せないが、ヒントがあれば思い出す |
・体験自体を忘れる 例)朝食を食べたこと自体を忘れる ・新しい出来事を記憶することが難しくなり、ヒントがあっても思い出せない | |||
自覚 | 忘れっぽいことを自覚している | 自覚が薄い、もしくは自覚がない | |||
見当識 | 時間や場所などは正しく認識できる | 時間や場所などの認識が困難になる | |||
判断力 | 低下しない | 低下する | |||
日常生活 | 支障がない | 支障をきたす |
そして、物忘れとは加齢とともに記憶力の低下や判断力、
適応力が衰え必ずしも病気ではありません。
傾聴とは、心を傾けてその人の話を聞くということです。
単に話を聞くのではなく、「教えてほしい」「理解したい」という姿勢で接することが重要です。
今やっている作業をやめる、身体を相手の方に向ける、視線を合わせる、
その人の言葉に耳を傾けるなど具体的に出来ることからやってみましょう。
強制したり、怒ったりしてしまうと、認知症の方には
悲しい・つらい、などの「ネガティブな感情」だけが残り症状を悪化させることがあります。
このような感情は、その後の行動に影響するため怒ったりする対応には注意しましょう(感情残像の法則)。
思考力や動作が遅くなるため、一度の処理できる仕事量が減ってしまい、
何をするにも人より多く時間がかかってしまいます。
ペースを乱されるとパニックに陥ってしまうことがあります。
ですが、言葉や態度で急かしたりせずに、ゆっくり本人のペースに合わせましょう。
認知症の方と接するとき、つい「なんで出来ないの?」という感情を持ってしまうこともあるでしょう。
ただし、このような感情を言葉や態度に出してしまうのは当たり前ですがNGです!
相手の尊厳を傷つけてしまい、関係が悪化しコミュニケーションが取りづらくなることもあります。
敬意を持って丁寧な言葉と態度で接するようにしましょう。
今日のわが国では、認知症の予防とは、認知症にならないという意味ではなく
認知症になるのを遅らせる、認知症になっても進行を緩やかにするという意味で、
「認知症対策推進大網」に基づいて認知症についてのさまざまな取り組みが進められています。
そして、最近の研究から、認知症は生活習慣病と深い関係にあり、生活習慣を
改善することで認知症の発症を抑制する効果があることがわかってきました。
なので、食生活、運動、社会活動への参加の3つに焦点を当て、それぞれの対策を見ていきましょう。
食事は、身体をつくる基盤となる大切な習慣です。
規則正しい時間に1日3食、バランスの良いメニューと適切なエネルギー量を心がけましょう。
特に糖質・塩分・脂質の摂り過ぎには注意が必要です。
糖分は摂り過ぎると血糖値が上昇しやすく、アルツハイマー型認知症や血管型認知症
のリスクを高める恐れがあります。
また、塩分の摂り過ぎは高血圧の原因であり、脳梗塞などの脳血管疾患につながる恐れが
あり、血管型認知症にも大きく関ります。
糖分と塩分の摂取量には注意しましょう!
よく噛むことで脳が活性化され、記憶力や判断力などが高まり認知症の予防に効果的です。
特にアルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβは、噛む回数が少ないと
増えてしまうと研究で報告されています。
さらに、歯を健康に保つことも大切です。
歯の本数が少ないと認知症になりやすいのも明らかになっています。
歯周病の予防や治療をして、認知症の発症リスクを低くしたり進行を遅らせたりすることができます。
運動は、生活習慣病の危険因子を取り除き、脳の状態を良好に保つ効果があります。
日々の生活に運動や身体活動を積極的に取り入れ、活動的に過ごしましょう。
運動は激しいものである必要はなく、毎日継続して行うことが大切です。
外に出て社会活動に参加することは、身なりを整える、持ち物を準備する、
集合時間に間に合うように逆算して家を出るといった段取りを考えるなど、
脳にさまざまな刺激を与えてくれます。
また、趣味を持ったり、人と関わったり、社会の中で役割を持つことは
認知症の予防につながる大切な取り組みになります。
現在、認知症を完全に治す方法は確立されていません。
脳細胞が死んでしまったり変質したりしてしまうことが認知症を引き起こしており、
脳細胞を生き返らせる方法が見つかっていないのが現状です。
認知症を発症する前の状態へ完全に治すことは困難ですが、認知症は症状の悪化を緩和することができます。
薬物療法では、認知症の中核症状を緩和、または進行を遅らせる働きを持つ
「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」「NMDA受容体拮抗薬」の主に2種類を使用します。
他にも、認知症の周辺症状を軽減するため、睡眠導入剤や抗精神病薬、
漢方薬などが用いられることもあります。
認知症を持つ高齢者の中には、血圧の薬や糖尿病の薬などを服薬している
ケースも多いため、服薬中の薬はしっかりとかかりつけ医に伝え、
飲み合わせや副作用に注意しながら治療を受ける必要があります。
薬物療法と並行して行われるのが、認知機能の向上を図ることで認知症の進行を緩和する非薬物療法です。
計算ドリルやパズルなどに取り組む学習療法や本の音読など、
頭を使う活動を行うことにより認知機能の維持や回復を目指す、認知リハビリテーションがあります。
他にも園芸療法や音楽療法、アロマテラピーや創作活動などの非薬物療法があります。
手先や指先を使う細かな作業や運動を行うことで、脳への刺激を増やし認知機能の改善を目指すことができます。
回想法とは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などをみたり、
触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法です。
昔のことを思い出し言葉にしたり、相手の話を聞くことで脳が活性化し、
活動性・自発性・集中力の向上や自発語の増加が促され、認知症の進行の予防となります。
また、思い出に浸り、語り合う時間を持つことで精神的な安定がもたらされます。
当院では、周辺症状には安定剤や漢方薬などのお薬を適切に処方させていただくことで、
ご本人と介護者の方がなるべく穏やかに過ごせるようにいたします。
認知症の方をご家族で介護するということは、言葉では言い尽くせないくらい大変なことです。
また、介護される方への周辺症状に対する対応の仕方の助言などを通して、
認知症の方にうまく寄り添うためのお力添えをさせていただきます。
ぜひ、お気軽に当院へご相談ください。