身体の中でも大切な脳に関わる医師として、長年、頭痛の診療にも携わってきました。
そんな私も片頭痛の経験があります。
はじめて発症した時のことなど、私自身の片頭痛にまつわるエピソードを紹介します。
2025年のゴールデンウィークの初日のことでした。
この日は妻と小学生の娘と一緒にお昼前からフラワーフェスティバル注に行くことになっていました。
朝食を済ませ、せっかくの連休初日、出かける前のひと時、テレビ画面でYouTubeのゴルフレッスン動画を観ておりました。
すると、出演者の体の一部がぼんやりとした白い影に隠れて見えにくくなりました。
気のせいかと思ったのですが、白いぼんやりしたものは少しずつ大きくなっていきました。
「これは、まさか…、閃輝暗点か…。せっかくの休みに…、誰か違うと言ってくれ…。」と祈りました。
しかし、願いもむなしく、白い影は徐々に大きくなり、その淵は虹色になっていきました。
自分の閃輝暗点の典型パターンです。
エピソードその2でも紹介したとおり、忙しさやストレスから解放されることも片頭痛の誘因の一つです。
今回は連休初日という、仕事から解放されて気が抜けたところに、片頭痛の発作がやってきました。
10分ほどして少し首を振ってみると、頭痛を感じましたので、片頭痛の専用治療薬であるトリプタンのひとつを内服しました。
さらに30分ほどしてもまだ痛みが残っている感覚があったため、レイボー®(ラスミジタン)を追加で飲みました。
ひどい痛みにはならずに済んだのですが、なんとなく重いような、嫌な感じが頭に残ったままでした。
フラワーフェスティバルにそろそろ出発する時間が迫るなか、自分の中で家族に、特に妻に言うべきか迷いました。
「片頭痛の発作が出た。」と、妻に言ってしまったら、「家でゆっくりしとく?」と言われそうでした。
心配をかけたくない気持ちや、一緒にお出かけをして娘の笑顔を見ておきたいという思いがあり、結局は妻には片頭痛の発作が出たことを黙っていることにしました。
会場に着いてみたものの、かなりの人混みで、片頭痛がくすぶった状態のまま、行き交う人々をかわして歩くのは大変でした。
串焼き・粉もの・ご当地グルメなどお昼ご飯がわりに購入するのも、夫・父親として率先して列に並ぶのですが、本当は座って待っておきたい気分でした。
屋台で売っていたビールも飲んでみたのですが、あまりおいしくありませんでした。
なんとか出し物やお店を巡って家路につく頃には片頭痛もほぼ落ち着いたのですが、疲れてしまいました。
このように、片頭痛は適切な治療薬をベストなタイミングで使用してもなお、頭痛発作後の症状として倦怠感・疲労感・食欲低下などが出てしばらく続くことがあります。
このため、仕事や家事などのパフォーマンスも下がってしまいます。
また今回の僕の場合、家族に対して心配させたくないために片頭痛が起きたことを言い出しにくかった・遠慮してしまった、という状況にもなりました。
幸い、自分の片頭痛は年に数回程度と多くはありません。
その僕ですら、今回の様な行動をとってしまいます。月に1回以上片頭痛がある患者さんのご負担は相当なものだと考えています。
回数が多い方の場合、ご家族も心配しておられたり、もっと一緒にしたいことがあったとしても気を使って控えておられたりするかもしれません。
また、職場では同僚や上司に言いにくい、ということも多いかと思います。職場や学校では、周囲に心配をかけさせたくないという理由の他に、片頭痛に対して理解が得られにくい、というケースも多いようです。
「また、頭痛?」「頭が痛いだけで休んでるなんで、サボってるんじゃないの?」と思われてしまう状況は、片頭痛のスティグマと言われています。
スティグマとは、周囲から否定的な意味づけをされ、不当な扱いことをうけることです。
社会全体の片頭痛に対する認識がより深まり、片頭痛を持っていない方も、片頭痛患者さんへのスティグマを持たずに気遣いができる未来になって欲しいと願っております。
また、患者さんご自身もセルフケアに取り組むとともに、自己判断の治療をせず、適切な治療を受けていただきたいと思います。
注) ひろしまフラワーフェスティバルは、広島市で毎年5月3日から5日まで開催される、花と緑と音楽をテーマにした平和の祭典です。平和大通りや平和記念公園をメイン会場に、パレード、ステージイベント、物産展など様々な催しが行われます。動員数は毎年160万人を越え、ゴールデンウィーク中のお祭りの中では最大級の動員数です。